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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)7293号 判決

原告

国鉄千葉動力車労働組合

右代表者執行委員長

関川宰

右訴訟代理人弁護士

葉山岳夫

清井礼司

山崎恵

市川昇

被告

株式会社産業経済新聞社

右代表者代表取締役

植田新也

右訴訟代理人弁護士

倉地康孝

坂本政三

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、サンケイ新聞朝刊全国版の社会面に、別紙(一)記載の謝罪広告を、二段抜き四・五センチメートル幅で、表題は、二・五倍活字(ゴシック体)、「株式会社産業経済新聞社」及び「国鉄千葉動力車労働組合殿」の部分は、一・五倍活字(ゴシック体)、その他の部分は、一倍活字(明朝体)をもつて、一回掲載せよ。

2  被告は、原告に対し、金三八〇万円及びこれに対する昭和五七年三月二七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、かつて日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)千葉鉄道管理局に所属する動力車関係の国鉄職員で労働組合として組織された団体である。被告は、新聞の発行等を目的とする会社であり、全国紙であるサンケイ新聞を発行している。

2(一)  被告は、昭和五七年三月二七日、同日付サンケイ新聞東京本社発行夕刊五版の社会面に別紙(二)の一の記事(以下「本件第一記事」という。)を三段抜き六・五センチメートル幅で掲載した。

(二)  本件第一記事は、千葉県警察本部が、昭和五七年三月二七日早朝、原告に対し捜索をした事実(以下「本件捜索」という。)について、不正確かつ不公正な事実報道を行つたうえ、結論部分において、「千葉県警の今回の捜索で信号ケーブル切断事件など一連のゲリラ事件に国鉄千葉動労が関与していたことがはつきりしたわけで、職場規律の確立を進めている国鉄に大きなショックを与えている」と断定し、一般読者に対し、原告が一連のゲリラ事件に組織的に関与していたと印象づけるなどして、記事全体の記述により、原告の社会的評価を著しく毀損した。

3(一)  被告は、昭和五七年一二月七日、同日付サンケイ新聞朝刊全国版の社会面に、別紙(二)の二の記事(以下「本件第二記事」という。)を九段抜き九・五センチメートル幅で掲載した。

(二)  本件第二記事は、本件訴訟の口頭弁論期日における被告の主張及びその解説という形態をとつてはいるが、意見広告のごとく、一方的に被告の主張のみを掲載し、これに肯定的な解説を加えることにより、一般読者に対し、「ジェット燃料輸送列車妨害を狙つた信号ケーブル切断など」の「一連のゲリラ事件」に原告が関与していたと裁判所が認めた(少なくとも証拠上明らかになつた)と印象づけ、原告の社会的評価を著しく毀損した。

4  原告が右二つの記事により被つた社会的評価低下による損害を金銭的に評価すれば、少なくとも金三〇〇万円を下らない。

また、原告は、本件訴訟追行のため、本件訴訟代理人である弁護士らに訴訟追行を依頼し、その報酬として、金八〇万円を支払うことを約した。

5  よつて、原告は、被告に対し、前記損害金三〇〇万円と弁護士費用金八〇万円の合計額である金三八〇万円及びこれに対する昭和五七年三月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告の名誉を回復するのに適当な処分として、請求の趣旨1項記載のとおり謝罪広告の掲載を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は認める。

同2(二)の事実のうち、「一般読者に対し、原告が一連のゲリラ事件に組織的に関与していたと印象づけ、原告の社会的評価を著しく毀損した」とする部分は否認し、その余は認める。

本件第一記事のうち「千葉県警の今回の捜索で信号ケーブル切断事件など一連のゲリラ事件に国鉄千葉動労が関与していたことがはつきりしたわけで」の部分は、それより前の本文三段目三行目までの部分(以下「前段部分」という。)の本件捜索に関する事実報道記事につないで、これに対する解説ないし説明を加えたものであるから、当然、前段部分と一体として理解されるべきである。そして、前段部分では、原告以外に「成田空港周辺の反対派団結小屋など」が何カ所も捜索を受けたことが述べられており、しかも、これらの団体などが一連のゲリラ事件のいずれにどのように関与していたかは全く明らかにされていないのであるから、右記述から原告が一連のゲリラ事件のすべてに関与していたように直ちには理解されないはずである。また、前段部分では、「今回の捜索は今月一三日の国鉄信号ケーブル切断事件のほか、一六日に空港燃料基地わきでおきた小型ワゴン車への……」としており、本文三段目四行目以下の部分(以下「後段部分」という。)でも「信号ケーブル切断事件など一連のゲリラ事件」と表記しているように、本件第一記事は、一連のゲリラ事件の中でも、「国鉄信号ケーブル切断事件」(以下「信号ケーブル切断事件」という。)を中心に据えているのは明らかであるから、原告は一連のゲリラ事件の中で「信号ケーブル切断事件」に関与していたとの趣旨に読めるものである。

また、「国鉄千葉動労が関与していた」という言葉の意味は、原告主張のように、原告の団体が「組織的に」関与していたという内容まで示すものではない。一般に、「労働組合が関与していた」との表現を用いたからといつて、労働組合としての方針ないし機関決定に基づき「組織的」に関与しているような明確な趣旨を含むものではない。本件捜索では、原告の本、支部組合事務所のみならず、有力幹部を含む組合員宅七カ所が捜索を受けたことから、原告自体が関与していたとの疑いも否定しえないが、原告を指導している有力幹部を含むかなりの組合員が関与していたとの疑いを含めて、このような表現をしているのである。

3  同3(一)の事実は認める。

同3(二)は否認ないし争う。

本件第二記事は、昭和五七年一二月六日の本件訴訟の第三回口頭弁論において、被告が準備書面(一)を提出した事実及びその反論の要旨を正確に報道したものであり、その内容、表現からして、原告の名誉を毀損したとは言えない。

4  同4の事実は否認する。

三  抗弁(本件第一記事について)

1  本件第一記事で報道の対象となつているのは、公的存在というべき当時の国鉄職員の労働組合たる原告の本、支部組合事務所が極めて反社会性の強い信号ケーブル切断事件に関し、威力業務妨害等の嫌疑で千葉県警察本部の捜索を受けた事実であるから、公共の利害に関する事実であつて、被告は本件記事を専ら公益を図る目的で報道したものである。

2  本件第一記事の内容は、以下に述べるとおり、いすれも、真実であり、仮にそうでないとしても、少なくとも、被告は真実と信ずるべき相当の理由があつたというべきである。

(一) まず、本件第一記事のうち、前段部分は、純粋に報道記事というべき部分であり、事実をそのままに記述している。ただ、記述を簡略化したために、どのような捜索場所がどのような被疑事実について捜索を受けたのかまでは個別具体的に特定されていないが、記述全体からして特に誤解を与えるものでもなく、虚偽の記述はなされていない。

(二)(1) 次に、後段部分は、前段部分の本件捜索に関する事実報道に対し、解説ないし説明を加えたものであるが、そのうち、「千葉県警の今回の捜索で信号ケーブル切断事件など一連のゲリラ事件に国鉄千葉動労が関与していたことがはつきりしたわけで」までの前半部分(以下「後段前半部分」という。)の各語句は、左記(ア)ないし(エ)に述べる意味に解釈されるべきであり、この解釈を前提にすると、後記3に述べる事実からして、当該部分は真実ないし少なくとも被告が真実と信ずるに相当の理由があるというべきである。

なお、後段前半部分については、フェア・コメントの法理(「公共性のある事項についての論議は、その立脚する事実の主要部分において真実かもしくは真実性を一応推測させる程度の相当な合理的根拠資料に基づいてのものである限り、単なる人身攻撃ではなく正当であると信じてなされた場合には、その用語・表現が相当激越・辛辣で、その結果として被論評者に対する社会的評価が低下することがあつても、憲法の保障する表現の自由の範疇に属する」)が適用されるべきである。

(ア) まず、「一連のゲリラ事件に……関与していた」との部分はこの記述のみから直ちに一連のゲリラ事件のすべてに原告が関与していたと読まれるべきではなく、記事全体の趣旨から、原告は、一連のゲリラ事件のうち「信号ケーブル切断事件」にのみ関与しているとの趣旨に読まれるべきである。

(イ) 「国鉄千葉動労が関与していた」という言葉の意味は、原告の団体が「組織的に」関与していたという内容まで示すものではない。

(ウ) 「関与」の意味は、「共謀」「実行」「教唆」「幇助」等といつた法律用語とは全く異なる日常的な用語であつて、「何らかのかかわりを持つこと」を意味するにすぎない。

(エ) 原告たる国鉄千葉動労が「関与していたことがはつきりした」とする部分は断定した訳ではなく、あくまで本件捜索を踏まえてなされた解説であり、原告が関与していたという疑いが、本件捜索を受ける限度にまで具体化し、明確化したという意味に読まれるべきである。

(2) 後段部分のうち「職場規律の確立を進めている国鉄に大きなショックを与えている。」とする部分(以下「後段後半部分」という。)は、国鉄本社や千葉鉄道管理局からの取材に基づく事実報道であると同時に、新聞紙上において、国鉄キャンペーンを展開している被告として、本件捜索に関し、読者に訴えたい点として、最後の結びとした部分であるが、これは、後記3(四)(2)で述べるとおり、真実であり、少なくとも被告が真実と信ずる相当の理由があつた。

3  本件第一記事は、当時、被告の社会部デスクであつた島崎道彦(以下「島崎」という。)が取材の指揮及び紙面作成の出稿責任者として、以下の経緯に基づき、構成し、被告において、これをサンケイ新聞に掲載したものである。

(一) 昭和五六年から同五七年にかけて、新東京国際空港の建設反対、阻止を目的とする過激派などの団体によつて遂行されたものと推測される一連のゲリラ事件が起きていた。すなわち、昭和五六年一月一九日の花見川第七立坑等に対する襲撃事件、昭和五七年三月一三日のジェット燃料輸送ルート等に対する連続ゲリラ事件及び同月一六日の土屋石油ターミナル基地に対する車両炎上事件であり、本件第一記事中の「一連のゲリラ事件」も、これら三つの事件を指すものである。

この中の二番目の事件が「信号ケーブル切断事件」であるが、旧国鉄総武、成田、鹿島の三線区に亙つて二九四本の列車の運行をストップさせ、利用者二八万人の足を奪う結果を招来した事件であり、強い社会的関心を集めていたものである。

(二) 「信号ケーブル切断事件」に関しては、発生時の取材、その後の継続的な情報収集で以下のような事実が明らかになつた。

(1) 「信号ケーブル切断事件」発生当日の午前一〇時前後、被告その他の新聞、テレビなどの報道機関に、「中核派革命軍」と称する団体が電話で犯行声明を通告、発表したことから、この団体が事件の実行行為者と判断されたが、この「中核派革命軍」は、中核派と一体のものである。

(2) 「信号ケーブル切断事件」は、次の諸点から見て、国鉄の内部事情に詳しく、列車の運行や、通信・信号系統などの専門的知識を持つ者が、犯行の計画、実行に際して手引き役を務めるか、ないしは何らかの形で関与したことを推測させるものであつた。

(ア) 「信号ケーブル切断事件」が発生した昭和五七年三月一三日の半月後である同月二八日には、成田空港のすぐ近くにある三里塚第一公園で、三里塚芝山空港反対同盟が主宰する「3・28全国総決起集会」が開催されることになつていた。この集会には中核派を始めとする過激派グループも参加することになつており、千葉鉄道管理局では、この決起集会に向けて行われることが予測された過激派によるゲリラ活動を防止するため、三月一七日から沿線の特別警戒体制をとることにしていた。この警戒体制は、当然のこととして、国鉄外部には秘密とされ、このことを指示した当局の書類も「取扱注意」とされていたのであるが、「信号ケーブル切断事件」は、この警戒体制が敷かれる直前にタイミング良く決行された。しかも、国鉄当局の警備体制の立案は、営業部で行うが、その実施については、原告の組合員が所属する運転部を含め、管理局全体で取り組んでいるのが実情である。本件の特別警戒体制を敷くにあたつても、その計画を事前に千葉鉄道管理局の部長会、課長会にかけて、周知徹底を図つており、したがつて、その内容は、同管理局職員には、広く知られていたのである。また、特別警戒体制をとつた場合、運転部では、原告の組合員の所属する電車課、事務課を含む同部所管各課の職員を警備乗務として機関車、電車に臨時に添乗させており、したがつて、原告の組合員がこれに全く関与しないということはありえない。また、特別警戒体制に関する書類が「取扱注意」となつていても、これは、国鉄外部への漏洩を禁じたものであつて、職員にまで秘密にしているわけではない。

(イ) 成田空港への国鉄を利用したジェット燃料輸送は、鹿島ルート(北鹿島―佐原―成田)と千葉ルート(京葉臨海鉄道から蘇我―千葉―成田)の二つのルートによつて行われており、このルートに沿つてCTC(列車集中制御装置)回線が設置されているのであるが、事故や故障が起きたときに備えて迂回の回線が用意されている。この迂回回線は、信号ケーブル切断事件発生の一〇日前に使用可能になつたばかりであり、しかも、この迂回ルートがどのように構成されているかは千葉鉄道管理局の一部関係者しか知らない。ところが、「信号ケーブル切断事件」は、燃料輸送が行われている鹿島ルート、千葉ルート沿いだけでなく、迂回ルートの椎柴―下総豊里間でも発生した。この区間でケーブルが切断されたことは、明らかに迂回ルートのCTC回線を狙つたものであり、犯行グループはCTC回線の構成図を見たか、あるいは入手したとしか考えられないのであり、いずれにせよ、国鉄職員が関与しなければ犯行の実行は不可能であると思われる。

そして、CTC回線の設置・保安義務は、電気部の所管であるが、原告の組合員が所属する運転部も、CTC回線の設置計画からその運用、保安に至るまで、深くかかわつているのが実情である。すなわち、運転部列車課の設備担当者は、CTC回線をどのようなルートでどのような場所に設置するかなど、その計画から電気部と共同で立案に参画しており、また、CTC回線の日常の運用は、同列車課の列車指令員がこれを担当しており、CTC回線にトラブルが生じたような場合は、運転部保安課が原因追及にあたつているのである。また、千葉鉄道管理局における列車課の設備担当者のテーブルは、同管理局建物の四階にあるが、原告の組合員が所属する電車課のテーブルとは、すぐ隣同士であり、同じ運転部に属する列車課と電車課は業務の面でも極めて密接な関係にあることを端的に示している。さらに、日常の電車等の運転は、CTCのコントロールの下に行われているのであり、信号も、CTCのコントロールの下にあるのであるから、運転に従事する原告の組合員がCTCや信号の構造について全く無関係かつ関知しないなどということはあり得ない。

(ウ) 信号ケーブルは、線路沿いに設置されているが、地形の関係から地下に埋設されているケースが多い。この埋蔵ケーブルは、通常その近くに埋設の標示があるが、場所によつては、埋設標示だけでは埋設地点を的確に知ることは困難である。このような埋設地点については、ケーブル埋設地図を見なければ掘りあてられないのに「信号ケーブル切断事件」の犯行では的確に掘りあてられ、破損させられている。

また、西船橋変電所の屋外に設置してある高圧ケーブルが時限発火装置を使つて焼き切られたが、同変電所には、数多くのケーブルがあるのに、そのうち千葉と東京を結ぶ通勤、通学動脈である総武線の電車運行を司る信号ケーブルが的確に狙われている。これらのことは、一般人では実行不可能であり、国鉄内部の者の関与を疑わしめるものである。

なお、西船橋変電所は、千葉鉄道管理局電気部市川電力支区の所管であつて、原告の組合員が直接業務にたずさわる部署ではない。しかし、その配線構造等について、原告の組合員が知ろうとすれば、同支区勤務者もしくは、勤務経験者から聞くことができる関係にある。

(エ) 信号ケーブルの破壊は、国鉄の技術関係の知識がない素人では不可能の方法が採られている。破壊された九ケ所のうち、五ケ所では、時限発火装置が使われているが、この装置にテルミットと称する特殊な金属粉が使われたことが、警察の捜査によつてつきとめられた。このテルミットは、一般にはその存在はほとんど知られておらず、入手も困難である。また、時限発火装置は、木箱の中にテルミットを詰め、タイマーなどをセットしてあつたものであるが、木箱の寸法はケーブルの埋設溝の寸法にぴつたり一致しており、すつぽりと嵌まるようになつていた。すなわち、犯人は、事前に埋設溝の寸法を知つていて、それに合わせて木箱を作つたと考えられるが、地下の寸法を実測するにせよ、図面等によつて知るにせよ、国鉄内部の者の方が、部外者よりもはるかに容易にできるはずである。

(オ) 犯行の手口は、刃物のようなものによる切断(四ケ所)と、時限発火装置による焼損(五ケ所)の二通りに分けたり、犯行時刻には時間差を設けるなどしているが、これらは、いずれも、復旧を長引かせることを狙つていると思わせるもので、予め国鉄側の対応を心得ていて、その裏をかいたものと推測させるものである。

(3) さらに、前記のとおり、「信号ケーブル切断事件」については、「中核派革命軍」から犯行声明がなされているが、「信号ケーブル切断事件」以前から原告と中核派との間に密接な関係があつたことは次の諸点から明らかである。

(ア) 原告は、昭和五四年三月三〇日、国鉄動力車労働組合(以下「動労」という。)の千葉本部が同組合から分裂、独立したものであるが、それは、千葉地方本部が、中核派と強く結びついていたため、革マル派と結びつきのある動労本部と対立したためである。

(イ) 中核派の機関紙に掲載される記事から、中核派と原告の密接な関係が充分に窺われる。例えば、昭和五六年七月二七日付「前進」においては、同年六月一二日、津田沼電車区内で起きた原告の組合員と動労の組合員との集団暴力事件に関し、「動労千葉六名逮捕の大弾圧粉砕し、カクマルせん滅一掃へ総決起せよ」との見出しを付した記事を掲載し、その中で「六人の仲間を守り抜き、その奪還・起訴粉砕をたたかいとり、動労千葉防衛・強化に邁進しよう!」と呼びかけ、同記事の末尾では、その激励先として原告の組合本部、津田沼支部の所在地を、それぞれ所番地付きで記載している。このように、中核派が原告の組合員を「仲間」と呼び、同志的関係をその呼称で示し、さらに原告の組合本部、支部の所在地まで紙面に明記して、激励の行動を起こすよう呼び掛けているのである。また、中核派機関紙「武装」では、昭和五二年一〇月号、同五三年一月号、及び同五六年三月号に、それぞれ原告の中野書記長(その後委員長となつた。)の演説が掲載されている。

(ウ) 原告の最高実力者である中野書記長が中核派と極めて密接な関係にあり、本人も、新聞、週刊誌等の紙上の発言で、中核派に属していることを否定していない。さらに、「中核派が組織内にいないともいわないが……」(昭和五四年四月二五日付東京新聞朝刊)とも述べており、これらの発言からして、原告の内部に中核派所属の者がいることは明らかである。

また、前掲新聞紙上で、「警視庁公安筋」も、「中核派主導の動労千葉」という見方をしており、千葉県警察本部も「動労千葉と中核派の機関紙は軌を一に連携している感じだし、青年部へ浸透している中核系が、動労千葉の執行部も握つている。動労千葉内の中核系勢力は成田への動員力二百数十人とほぼ同じではないか」と分析している。

(エ) 昭和四二年一月一五日、革マル派の構成員である船橋新の千葉市幕張町五の二五四の自宅が、ヘルメット、鉄パイプ等で武装した数人の男に襲われ、入浴中の同人の弟、清久が兄と間違われて、頭、腕などを殴られ重傷を負つた事件があり、容疑者の一人として中核系船橋反戦の樋渡周二が凶器準備集合、建造物侵入、傷害容疑で千葉県警察に逮捕され、千葉地裁で実刑判決を受けたが、同人は、その取調において、千葉地方検察庁の検事に対する供述調書の中で、「中核派系である千葉県反戦の議長は中野洋である」と供述している。

(オ) 本件第一記事掲載後の事実

昭和五八年一一月一四日付「前進」は、いわゆる三里塚闘争の現地集会への参加を呼びかける記事を掲載しているが、それによると、集会の主催者は「三里塚闘争に連帯し動労ジェット闘争を支援する東京実行委員会」であり、協賛団体として原告が三里塚芝山連合空港反対同盟とともに名を連ねているのであるが、右主宰者の実行委員長が中核派と密接な関係にあることは、同委員会の代表世話人として名前が掲げられている立正大学教授浅田光輝が中核派の理論的指導者とみられていること、また同実行委員会の住所として記載されている所番地は、中核系とされる区議の事務所等と同一であることから疑いを容れない。また、右浅田光輝は、本件第一記事について抗議のために原告の代表と共に被告を訪れている。

昭和五八年三月二七日に行われた成田空港反対運動の集会は、二箇所に別れた分裂集会となつたが、原告から参加した二五〇名の組合員は、三里塚第一公園で行われた中核派系の集会に出席した。

(三)(1) かかる事情の下で(但し、右(二)(3)(オ)を除く)、昭和五七年三月二七日午前、千葉県警察本部から各新聞社に対し、記者クラブにおける広報メモの配布により、前記三事件の容疑で、同日午前七時から午前一一時までの間に原告の本部組合事務所のある動力車会館と津田沼支部組合事務所を含む一五カ所に対し、捜索、差押を実施した旨の発表がなされた。

(2) 島崎は、千葉支局から送稿されてきた右広報メモに基づく原稿で捜索の事実を知り、その原稿は、夕刊三版に出稿したうえ、社会部の各記者及び千葉支局員らに捜索場所の詳細な確認や、さらに詳しい背後事情の取材、情報収集を指示した。そして、右指示の結果、次のような事実が収集された。

(ア) 本件捜索は、原告の組合本部、同津田沼支部事務所のほか、中野洋書記長、片岡一博教宣部長ら七人の有力な幹部組合員の自宅が含まれ、原告関係で計九ケ所にも及んだこと。

(イ) 原告関係の捜索は、いずれも本件事件にかかわる威力業務妨害、窃盗、暴力行為等処罰に関する法律違反容疑で千葉地方裁判所が発した捜索差押許可状にもとづいて行われたこと。

(ウ) 千葉県警察は、捜索差押許可状の請求にあたつて、(ⅰ) 原告と中核派は、極めて親密な関係にあり、とりわけ、中野書記長を中心とした中野一派とよばれる原告の組合内の反戦グループは、中核派と一体になつて行動していること、(ⅱ) 本件事件の被疑者は不詳であるが、原告が関与している疑いは濃厚であること、(ⅲ) 本件事件の犯行状況、犯行場所から推断すると、CTCの機能と系統を熟知するなど、国鉄の内部事情に詳しい者のしわざとみられること、などを理由にあげ、千葉地方裁判所は、この理由による請求を認めて捜索差押許可状を発したこと。

(エ) 本件捜索では、原告の機関紙、ビラ類だけでなく、原告の金銭出納簿、決算報告書、動員原簿など原告の本件事件への関与を窺わせる物が多数押収されたこと。

(四)(1) 以上の事実、情報に基づき、島崎は、担当デスクとして、先に夕刊三版に出稿した本件事件に関する記事を全面的に差し替える必要があると判断し、取材によつて収集した右事実と三版の記事内容とをつき合わせたうえ、本件記事を取り纒め、午後零時三〇分締切りの夕刊最終版(五版)に出稿した。

(2) なお、島崎は、本件記事を取り纒める際、本件第一記事後段後半部の記述を結びとしたが、この部分の記述については、次の事情から、真実ないし少なくとも真実と信ずるにつき相当な理由があつたものである。

すなわち、もともと、国鉄当局は、原告が新左翼過激派の中核派との結びつきを強め、新東京国際空港反対という政治闘争に深くかかわり、昭和五六年三月六日にはジェット燃料貨車輸送の期間延長に反対して二四時間ストを行い、総武線等の電車をストップさせて、大きな社会的混乱を引き起こすなどの目に余る行動に訴えて来たことについて、深く憂慮していたことは、疑いない事実である。そこへ、今度は信号ケーブル切断事件が起こり、国鉄は、さらに甚大な被害を受けるとともに、社会的にも重大な混乱と不安を与えるに至つたものであり、しかも、その犯行の態様から国鉄内部の者が何らかの形で右事件に関与しているとの疑いが国鉄内部においてすら持たれている状況において、原告に対する今回の本件捜索は、その疑いを現実かつ具体的なものにしたものと言えるからである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、「被告は、本件記事を専ら公益を図る目的で報道した」との点を否認し、その余を争う。

2  抗弁2の冒頭部分は争う。

同2(一)は争う。

同2(二)(1)は争う。(ア)ないし(エ)については、広辞苑第二版(岩波書店)によれば、「など」とは、「ある語に添えて、例をあげてさし示す意をあらわし、また、その物事に限らずその外にある意をあらわす」とあり、「はつきり」とは、「① あきらかなさま、分明なさま、② さわやかなさま、すつきり、③ たしかなさま、しつかり」とあり、「関与」とは、「あずかること、かかわること」となつており、被告の解釈の不当性は明らかである。

同2(二)(2)は否認する。

3(一)  抗弁3(一)は不知。

(二)(1)  同3(二)(1)は否認する。

(2)  同3(二)(2)は否認する。

以下の事情から、原告は、「信号ケーブル切断事件」に関与できる立場にはいなかつた。

原告は、国鉄労働組合や鉄道労働組合のような「国鉄職員をもつて構成する労働組合」ではなく、「動力車に関係あるもので組織」された職能別労働組合であり、組合員の職種は、機関士・電車運転士・気動車運転士のほか、車両検査係、車両検修係、構内(機関区・電車区)運転係、構内整備係及び動力車関係区の事務係に従事する者に限定され、その所属部局は、千葉鉄道管理局運転部のうちの電車課・事務課に限られている。

同3(二)(2)(ア)について

国鉄当局の警備体制は、公安課を含む営業部で立案・実行される性質のものと思われるが、原告は、営業部とは全く稀に団体交渉の相手方として相対する関係しかない。

同3(二)(2)(イ)について

CTC回線の設置保安業務は、局電気部の所管であり、運転部は、これに関与しない。運転部の列車課所属列車指令員は、CTC回線を通じ、乗務員に対し、指令を発する業務を行い、その範囲でCTC回線にかかわるだけである。また、運転部の他課(総務・保安・電車・事務課)は、列車課と同室にあるからといつて、列車課の業務にかかわるものではない。また、運転部保安課は、運転事故の原因究明及び対策を担当し、CTC回線の保安にはかかわらない。また、乗務員は、CTC回線を通じて送られてくる指令に従い運転するのみであり、CTC回線や信号ケーブルの構造・構成について知識を有するものではない。

同3(二)(2)(ウ)について

破壊された信号ケーブルは、いずれも地上の見やすい所にあらわれていたり、標示板・埋設標により容易に知りうる所に埋設されており、何人も容易にこれを破壊することができる状態にあつた。また、西船橋変電所と総武線をつなぐ高圧ケーブル一二本は、高架線、電柱、地上トラフを通じ、いずれも見やすい状態で束ねられているため、ゲリラにおいてどれが何のケーブルかを識別できなくても、一括して破壊することにより、目的を達成できたと思われる。

同3(二)(2)(エ)について

テルミットについては、その酸化還元の原理やレール溶接に用いられるとの用途は、高校生用の「化学」の参考書に記載されているものである。また、国鉄の技術関係の知識は、鉄道図書等により一般に普及しており、国鉄関係者以外の者も容易に知りうる状態にある。

同3(二)(2)(オ)について

「国鉄側の対応」の意味が不明確であるが、警戒警備については、前記の営業部が、復旧については、前記の施設部、電力部が、それぞれ対応を検討し実施する性質のものであつて、運転部とは関係ない。

なお、ゲリラの索敵情報収集能力の高いことは、幾多のゲリラ事件が、その犯行声明にもかかわらず、未解決のまま、現在に至つていることから充分推察できるものであり、「信号ケーブル切断事件」についても、ゲリラ行動のために、国鉄の動向、対応を研究分析していた者にとつては、国鉄の警戒体制等を予測することはそれ程困難が伴うとは思われない。

(3)  同3(二)(3)のうち、中核派と原告が密接な関係を有しているとの主張は否認する。

同3(二)(3)(ア)について

原告が動労本部から独立して新組合を結成したことは認めるが、それは、動労本部が、動労の基本方針である合理化反対闘争の立場を放棄(貨物安定宣言)し、千葉地本が取り組んできた地域住民との連帯及び運転保全の確立を目指した三里塚・ジェット燃料貨車輸送反対闘争を否定し、組合運動の限界を超える特定党派の運動(いわゆる「水本事件」)を導入し、これらを暴力的に組合員に押し付けるために組合民主主義を一切無視したためであり、労働組合が組合員の地位、権利を擁護し、向上させるという当たり前の組合として生き残るためであつて、中核派とは全く関係ない事柄である。

同3(二)(3)(イ)について

被告は、中核派の機関紙である「前進」に原告に関する好意的な記事が掲載されていることを、原告と中核派との「密接な関係」の一根拠としてあげているが、これは、「前進」が原告の一連の活動に賛意を持つていることを証明するにすぎず、これにより、中核派と原告が何らかの関係を有しているとの理由付けをすることができないことは、明らかである。

同3(二)(3)(オ)について

「三里塚闘争に連帯し動労ジェット闘争を支援する東京実行委員会」が昭和五八年一一月二七日主催した三里塚現地集会に、原告が三里塚芝山連合空港反対同盟と共に協賛団体として参加したことは認めるが、それは、三里塚闘争に連帯しつつ、危険なジェット燃料暫定貨車輸送業務に反対してきた原告にとつて、独自の運動方針に基づく行動であり、中核派と何らかかわりがない。また、同実行委員会は、三里塚闘争と原告のジェット闘争の支援を目的とする大衆団体にすぎない。なお、浅田光輝立正大学教授が、被告に対し、本件記事につき抗議をしたことは、原告の名誉と権利を擁護することの必要性を認識した文化人としての自発的行動にすぎない。

(三)(1)  抗弁3(三)(1)の事実は不知。

(2)  同3(三)(2)のうち、昭和五七年三月二七日、原告の本部事業所及び津田沼支部事務所が、「信号ケーブル切断事件」につき、捜索を受け、原告の機関紙、ビラのほか、金銭出納簿、決算報告、動員簿が押収されたことは認め、その余は不知。

なお、押収された金銭出納簿、決算報告、動員簿等の物件は、いずれも「信号ケーブル切断事件」の捜査が未了であるにもかかわらず、同年四月七日、千葉県警察から原告に対し、還付通知がなされ、同年四月一二日、還付されており、右事件と何ら関連がないことが明らかであり、これら物件の押収によつては、原告の右事件への関与を推認することはできない。

3(四)  抗弁3(四)(1)は不知。

同3(四)(2)は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一1  請求原因1及び同2(一)の事実は当事者間に争いがない。そして右争いのない事実によれば、本件第一記事は「千葉動労など捜索」「成田空港反対 あすの集会に先制」といつた見出しを掲け、前段部分において、原告の本、支部や成田空港周辺の反対派団結小屋など一五カ所に対して、威力業務妨害、放火、凶器準備集合などの嫌疑で、千葉県警察による家宅捜索が行われたことを報じるとともに、後段部分において「今回の捜索で信号ケーブル切断事件など一連のゲリラ事件に国鉄千葉動労が関与していたことがはつきりしたわけで、職場規律の確立を進めている国鉄に大きなショックを与えている」と記述しており、その記載自体から、労働組合である原告が信号ケーブル切断事件など一連のゲリラ事件に関与していたような印象を読者に与える余地があることは明らかで、このことにより、一応、原告の社会的評価は毀損されたというべきである。

もつとも、本件第一記事を総合的に読めば、本件第一記事は、「信号ケーブル切断事件」を一連のゲリラ事件の中心に据えて扱つていることが読み取れても、本記事の文面のみからでは、原告が「信号ケーブル切断事件」のみに関与したにすぎない趣旨にまで読み取ることは困難であるといわざるを得ず、また、原告が組合の方針ないし機関決定に基づいて右事件に関与していたとの趣旨には直ちに理解されないが、少なくとも、原告に対して非難が向けられる程度に、その団体のあり方と関連して構成員が犯罪行為である右事件に関与していたとの印象を与えるものと判断される。

2  請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがない。そして、右争いのない事実によれば、本件第二記事は、原告も認めるように、本件第一記事に関連して原告が被告に対し名誉毀損による損害賠償を求めた本件訴訟の第三回口頭弁論期日における被告の主張の内容の要旨を報道していることが明らかである。

ところで、原告は、右記事は、一方的に被告の主張のみを掲載し、これに肯定的な解説を加えることにより、一般読者に対し、「ジェット燃料輸送列車妨害を狙つた信号ケーブル切断事件など」の「一連のゲリラ事件」に千葉動労が関与していたと裁判所が認めた(少なくとも証拠上明らかになつた)と印象づけた旨主張するので、この点について判断する。右の記事によると、確かに、原告の主張を紹介した部分は、冒頭部分の「国鉄千葉動力車労働組合(関川宰委員長)が……『虚偽の報道で名誉毀損にあたる』と訴えた」とする部分のみで、その余の大半の部分は、被告側の本件訴訟における主張のみを掲載していることが認められるが、被告側の主張についての解説はもとより、裁判所が千葉動労のゲリラ事件への関与を認めたとか、あるいは、右関与が証拠上明らかになつた等の記載は一切ないから、被告側の主張の紹介が記事中の大部分を占めることから直ちに、右記事が、裁判所が千葉動労のゲリラ事件への関与を認めた、あるいは、少なくとも証拠上明らかになつたと印象づけた記事であるとは到底解されないと言うべく、本件記事の内容は、要するに、本件訴訟において、被告がどのような主張をし、また、いかなる証拠調請求をする予定かという、いわば、裁判における攻防が紹介されたものにすぎず、本件第二記事に掲載されている被告の主張はそれ自体、訴訟上の攻撃防御方法の提出として訴訟法上許容されるものであり、一般に訴訟において、当事者がどのような主張をしたかということを公表することは、直ちに相手方当事者の社会的評価に結びつくという性質のものではないのであるから、本件記事によつて原告の社会的評価が特に低下したとの原告の主張事実を認めることは、到底できないというべきである。

よつて、原告の本件第二記事による名誉毀損の主張は理由がない。

二そこで、次に抗弁(本件第一記事について)について判断する。

1 新聞記事が、他人の名誉を毀損する場合であつても、右記事を掲載することが、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たときは、摘示された事実の真実性が証明される限り、右行為は、違法性を欠くものとなり、不法行為は成立せず、また、右事実の真実性が証明されなくても、当該報道を行つた者において右事実を真実と信じ、真実と信じたことについて相当の理由があると認められるときは、右行為は、故意もしくは過失を欠くものとして、不法行為は成立しないものと解すべきである。

2  これを本件第一記事について検討するに、国鉄の信号ケーブル切断事件等のゲリラ事件は、国民に対し、一時的にせよ重要な交通機関を利用できないなどの実害を及ぼし、少なからぬ不便と脅威を与えるものであり、しかも、このゲリラ事件に関し、当時の国鉄職員の労働組合の本、支部が捜索されたとの事実は、公共の利益の観点から放置できない事柄であるから、このようなことを報道した本件第一記事が、公共の利害に関する事実にかかわるものであることは、明らかである。また、〈証拠〉に、本件第一記事の内容を参酌すれば、右記事の掲載は、公的存在である原告に対する本件捜索の事実を国民に知らしめ、「国民の知る権利」に応えようとする公益を図る目的でなされたものと認められる。

3  そこで、進んで、本件記事の内容が真実に合致するか否か、仮に真実に合致するとの証明がなされなかつたとしても被告の担当者がその内容を真実と信ずるについて相当の理由があつたか否かについて判断する。

(一)(1)  昭和五七年三月二七日、原告の本部事務所及び津田沼支部事務所が、信号ケーブル切断事件について、捜索を受け、原告の機関紙、ビラ、金銭出納簿、決算報告、動員簿が押収されたことは、当事者間に争いがない。右争いのない事実に、〈証拠〉を総合すると、以下の各事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(ア) 昭和五六年一月一九日、午前五時二〇分頃、千葉市畑町の成田空港ジェット燃料輸送用パイプライン工事第七立坑に火炎ビンが投げ込まれる事件が発生し、これについて、ゲリラ行動であるとの推測が同日付けの朝日、毎日新聞の各夕刊紙上に報道されたこと。

(イ) 昭和五七年三月一三日未明から早朝にかけて、千葉、茨城県内の国鉄成田、鹿島線、総武本線の計七地点で、国鉄の送電、信号ケーブルなど一〇数ケ所が一斉に切断されたり、時限発火装置で焼かれるなどの妨害行為があり、このことにより、各線が始発時から全面ストップするなどし、約二五万人の乗客が影響を受けるという事件が発生したこと。

(ウ) 昭和五七年三月一六日午後六時四五分頃、成田市土屋の成田空港土屋燃料基地横の県道わきで駐車していたワゴン車が突然火を吹くという事件があり、車の中にガスボンベが積んであつたことなどから、千葉県警察が過激派の犯行とみて、捜査したこと。

(エ) 昭和五七年三月二八日早朝、千葉県警察は、「信号ケーブル切断事件」に関して、威力業務妨害、窃盗、暴力行為等処罰に関する法律違反等の被疑事実で、原告の本部事務所及び津田沼支部事務所を始め、原告組合の当時の委員長の中野宅、教宣部長の片岡宅、津田沼支部の書記長吉岡宅など組合員七名の自宅について、それぞれ家宅捜索を行い、原告の本部事務所及び津田沼支部事務所においては、原告の機関紙、ビラ、金銭出納簿、決算報告、動員簿を押収したこと。また、同時に、千葉県警察は、前記(ア)ないし(ウ)の容疑で、新東京国際空港周辺の反対派団結小屋など数ケ所を捜索したこと。

(オ) 原告組合の本部事務所、津田沼支部事務所は、組合員宅四ケ所とともに昭和五六年七月一五日にも、千葉県警、船橋署、千葉中央署により、一斉家宅捜索を行われた事実があること。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(2)(ア)  以上の認定事実によれば、本件第一記事の前段部分のうち、本文二段目三行目「昨年につづいて二度目のこと。」までの部分(以下「前段部分前半」という。)のうち、捜索の内容の点については、原告以外の場所に対する捜索も併せて記載されているため、原告に対する捜索がいかなる被疑事実によるものか、限定、明確化されておらず、その点は多少曖昧な表現になつているといえるが、捜索が原告関係以外の所にも及んだことは文面上明らかであるから、捜索の被疑事実として記載されている「威力業務妨害、放火、凶器準備集合」がすべて原告関係の捜索についても被疑事実となつていたとの誤解を生じる虞れは少なく、前段前半部分の記事の原告に対する部分の曖昧さは、虚偽の事実を報道しているというより、記事を簡潔にまとめる必要がある場合に通常要請される包括的な表現として許容される範囲内の手法というべきである。そして、前段前半部分中、その余の点については、前記3(一)(1)の認定事実をありのままに表現していると認めることができる。

(イ)  次に、本件第一記事前段の本文二段目四行目以下の部分(以下「前段後半部分」という。)についてであるが、この部分は、前段前半部分を受けて、その捜索の意味づけについて推測を述べていることは、文面から明らかであるところ、当該部分も前記3(一)(1)の認定事実に照らすと、その推測は事実に沿うものであるということができる。

(3)  以上によれば、本件第一記事中前段部分については、いわゆる真実性の証明があつたというべきである。

(二)(1)  次に、本件第一記事後段部分の真実性について判断するに、後段部分の前半のうち「ゲリラ事件に原告が関与していた」との事実については、これを真実と認めるに足りる証拠はないから、いわゆる真実性の証明はないといわざるをえない。

(2) そこでさらに、被告の担当者が右の記事部分を含めて後段部分の記事の内容を真実と信じ、かつ、真実と信じたことに相当の理由があつたか否かについて判断する。

(ア) 〈証拠〉によれば、本件第一記事は、当時被告新聞社の社会部次長であつた島崎道彦(以下「島崎」という。)が、出稿責任者として、各記者の取材に指示を与え、また、個々の取材によつて得られた情報を確認、吟味して、最終的に記事の内容を決定し作成したものであることが認められる。そこで、島崎が本件第一記事を作成した経緯及び島崎自身の有していた認識内容等について、検討することとする。

(イ) 〈証拠〉によれば、以下の事実を認めることができる。

(ⅰ) 島崎は、昭和三八年四月に被告新聞社に入社し、同四二年から、東京本社社会部員となり、警視庁記者クラブ、羽田空港記者クラブ兼運輸省記者クラブ航空問題担当、労働省記者クラブ詰めなどの経験を経たあと、昭和五六年秋から同五八年二月までは、社会部からの朝・夕刊の出稿コントロール、取材記者の指揮を担当するデスク業務に従事していた。

(ⅱ) 昭和五六年三月一三日、「信号ケーブル切断事件」が発生した直後から、島崎は、本社社会部国鉄担当記者及び千葉支局の担当記者らに対し、右事件についての取材を指示した。これを受けた右記者らは、千葉鉄道管理局、国鉄首都圏本部、国鉄本社等に対して、ダブルチエックと称する取材方法、すなわち、一箇所で得た情報は他の箇所で裏付け取材を行つて、その信ぴよう性を確保するという手法による取材を行い、さらに、島崎自身も犯行現場の一つである西船橋変電所に赴くなどの取材を行つた。その結果、島崎は、以下の情報を入手するに至つた。

Ⅰ 「信号ケーブル切断事件」が発生した日の半月後である同月二八日には、成田空港の近くにある三里塚第一公園で、三里塚芝山空港反対同盟が主催する「3・28全国総決起集会」が開催されることになつていた。そして、この集会には中核派を始めとする過激派グループも参加することになつていたため、千葉鉄道管理局では、この決起集会に向けて行われることが予測される過激派によるゲリラ活動を防止するため、三月一七日から沿線の特別警戒体制をとることにしていた。この警戒体制は、国鉄外部には秘密とされていて、このことを指示した国鉄当局の書類は、「取り扱い注意」とされていたにもかかわらず、「信号ケーブル切断事件」は、この警戒体制が敷かれる直前に決行されていること。

Ⅱ 成田空港への国鉄を利用したジェット燃料輸送は、鹿島ルート(北鹿島―佐原―成田)と千葉ルート(京葉臨海鉄道から蘇我―千葉―成田)の二つのルートによつて行われており、このルートに沿つてCTC(列車集中制御装置)回線が設置されているが、事故や故障が起きたときに備えて迂回の回線が用意されていた。しかし、この迂回回線は、信号ケーブル切断事件発生の一〇日前に使用可能になつたばかりであり、しかも、この迂回ルートがどのように構成されているかは千葉鉄道管理局の一部関係者しか知らないはずであつた。しかるに、「信号ケーブル切断事件」は燃料輸送が行われている鹿島ルート、千葉ルート沿いだけにとどまらず、迂回ルートの椎柴―下総豊里間でも発生しており、このことから「信号ケーブル切断事件」に国鉄内部の者の関与が推測される状況であつたこと。

Ⅲ 信号ケーブルは、線路沿いに設置されているが、地形の関係から地下に埋設されているケースが多く、この埋設ケーブルは、通常その近くに埋設の標示があるが、場所によつては、埋設標示だけでは埋設地点を的確に知ることは困難な状況であるから、埋設地点については、ケーブル埋設地図を見なければ掘りあてられないはずであるのに、「信号ケーブル切断事件」の犯行では的確に掘りあてられ、破損させられていること。

また、島崎自身が取材に赴き確認したところによると、西船橋変電所の屋外に設置してある高圧ケーブルが時限発火装置を使つて焼き切られたが、同変電所には、二〇本程度のケーブルがあるのに、そのうち千葉と東京を結ぶ通勤、通学動脈である総武線の電車運行を司る信号ケーブルが的確に狙われており、この点からも、国鉄内部の者の関与を疑わしめるものであつたこと。

Ⅳ 信号ケーブルが破壊された九ケ所のうち、五ケ所では、時限発火装置が使われているが、この装置にテルミットと称する特殊な金属粉が使われていたことが、警察の捜査によつてつきとめられた。このテルミットは、一般にはその存在はほとんど知られておらず、入手も困難なものであるが、国鉄のレールの溶接に用いられるものであつたこと。また、時限発火装置は、木箱の中にテルミットを詰め、タイマーなどをセットしてあつたものであるが、木箱の寸法はケーブルの埋設溝の寸法に一致しており、犯人は、事前に埋設溝の寸法を知つていて、それに合わせて木箱を作つたと考えられるところ、地下の寸法を実測するにせよ、図面等によつて知るにせよ、国鉄内部の者の方が、部外者よりもはるかに容易にできるはずであり、この点からも、国鉄内部の者の関与を疑わせる状況であつたこと。

Ⅴ 犯行の手口は、刃物のようなものによる切断(四ケ所)と、時限発火装置による焼損(五ケ所)の二通りに分けたり、犯行時刻には時間差を設けるなどしているが、これらは、いずれも、復旧を長引かせることを狙つていると思わせるもので、予め国鉄側の対応を心得ていて、その裏をかいたものとの推測が捜査当局においてなされていたこと。

(ⅲ) 「信号ケーブル切断事件」の犯行当日の午前一〇時頃、被告その他の新聞、テレビなどの報道機関に、「中核派革命軍」と称する団体が犯行声明を通告してきたが、島崎は、次のような事情をもとに「中核派」と原告との間に親密な結び付きがあるとの認識を有していた。

Ⅰ 原告は、昭和五四年三月三〇日、国鉄動力車労働組合(以下「動労」という。)の千葉本部が同組合から分裂、独立したものであるが、それは、千葉地方本部が、中核派と強く結びついていたため、革マル派と結びつきのある動労本部と対立したためと島崎は認識しており、このことは、「信号ケーブル切断事件」発生以来取材を継続していた担当記者の間でも、常識となつていた。そして、昭和五四年三月三一日付朝日新聞朝刊には「動労内には、理論グループというより人脈的つながりを重視する政研、労連研の二大派閥があり、一昨年の三三回全国大会で政研が主導権を握つた。東京地本を中心に影響力のある革マル派が主流派の政研を支持、一方、反主流派の労運研に属する千葉地本は成田闘争の関係から中核派の影響が強い。『千葉問題』の根底には、新左翼同士の『革マル対中核』の対立の図式がある、と公安、国鉄当局はみている。」との記事が掲載され、また、同五四年四月二五日付の東京新聞朝刊には「この動労本部と動労千葉の抗争を、警視庁公安筋は『革マル派主導の動労本部と、中核派主導の動労千葉(千葉地本)との、セクトの争い』とみており、」などの記事が掲載されていたこと。

Ⅱ 中核派の機関紙に掲載される記事から、中核派と原告の密接な関係が窺われたこと。例えば、昭和五六年七月二七日付「前進」においては、同年六月一二日、津田沼電車区内で起きた原告組合員と動労組合員との集団暴力事件に関し、「動労千葉六名逮捕の大弾圧粉砕し、カクマルせん滅一掃へ総決起せよ」との見出しを付した記事を掲載し、その中で「六人の仲間を守り抜き、その奪還・起訴粉砕をたたかいとり、動労千葉防衛・強化に邁進しよう!」と記述し、さらに、同記事の末尾では、激励先として原告の本部、津田沼支部の所在地を、それぞれ所番地付きで記載するなどしていること。また、中核派機関紙「武装」では、昭和五二年一〇月号、同五三年一月号、及び同五六年三月号に、それぞれ原告の中野書記長(その後委員長となつた。)の演説が掲載されていること。

Ⅲ 前記昭和五四年四月二五日付東京新聞朝刊紙上に、原告の最高実力者である中野書記長が「中核派が組織内にいないともいわないが……」と述べている記事が載つており、また、昭和五六年三月一九日付週刊新潮には、中野書記長の言葉として、「中核かつて聞かれても、そうだとか、そうじやないとかいう必要はないと思つている。あえて肯定も否定もしない」との発言が記載されており、島崎は中野書記長が中核派に属していることを否定していないとの認識を有していたこと。

また、前記東京同新聞紙上には、「千葉県警も『動労千葉と中核派の機関紙は軌を一に連携している感じだし、青年部へ浸透している中核系が動労千葉の執行部もにぎつている。……』と分析する。」との記事も掲載されていたこと。

(ⅳ) 昭和五七年三月二七日午前、千葉県警察本部において、広報担当官が、記者クラブにおいて、県警が原告の組合本部などをゲリラ事件容疑で捜索した結果を公式に発表し、その内容として「千葉県警では、五六年一月一九日の花見川第七立坑等に対する襲撃事件、本年三月一三日ジェット燃料輸送ルート等に対する連続ゲリラ事件、三月一六日の土屋石油ターミナル基地に対する車両炎上事件の容疑で次のとおり捜索、差押を実施した。日時 三月二七日午前七時〜一一時まで 場所 原告の組合本部の存在する『動力車会館』及び『国鉄千葉動力車労働組合津田沼支部組合事務所』を含む一五ケ所」などを記載した広報メモを掲示した。同日、午前一一時過ぎ、千葉支局から右広報メモに基づく原稿が島崎のもとに送稿されたので、島崎は、これによつて、捜索の事実を知るとともに、その原稿を、同一一時二〇分の夕刊三版の出稿締め切り時間に間に合うように、出稿したうえ、社会部の国鉄担当、警察庁担当、警視庁担当の各記者、千葉支局員及び、労働省労働組合担当の記者らに対し、詳しい捜索場所等の事実の確認及び各事件との関連性等背後事情を調査するように指示した。

そして、右指示に基づく取材の結果、次のような情報が収集された。

Ⅰ 警視庁公安部及び警備部の各係官に対する取材によると、本件捜索は、原告の組合本部、同津田沼支部事務所のほか、中野洋書記長、片岡一博教宣部長ら七人の有力な幹部組合員の自宅が含まれ、原告の組合関係で計九ケ所にも及んだとのことであつたこと。

Ⅱ 原告の組合関係の九ケ所の捜索は、いずれも「信号ケーブル切断事件」にかかわる威力業務妨害、窃盗、暴力行為等処罰に関する法律違反容疑で千葉地方裁判所が発した捜索差押許可状にもとづいて行われたこと。

Ⅲ 千葉県警察の警備部、警察庁警備局及び千葉地方検察庁の各担当係官に対する取材によると、千葉県警察が捜索差押許可状の請求にあたつて、千葉地方裁判所の裁判官に対して、口頭で、以下の理由を述べたとのことであつたこと。

① 原告と中核派は、極めて親密な関係にあり、とりわけ、中野書記長を中心とした中野一派とよばれる原告の組合内の反戦グループは、中核派と一体になつて行動している。

② 本件事件の被疑者は不詳であるが、原告が関与している疑いは濃厚である。

③ 本件事件の犯行状況、犯行場所から推断すると、CTCの機能と系統を熟知するなど、国鉄の内部事情に詳しい者のしわざとみられる。

Ⅳ 本件捜索では、原告の機関紙、ビラ類のほか、原告の金銭出納簿、決算報告書、動員原簿など多数の物件が押収され、このことから、原告の本件事件への関与が強く窺われるものとなつたこと。

Ⅴ 以上の事実、情報に基づき、島崎は、担当デスクとして、先に夕刊三版に出稿した本件事件に関する記事を全面的に差し替える必要があると判断し、取材によつて収集した右各事実と第三版の記事内容とをつき合わせたうえ、記事の結びとして、今回の捜索に対する国鉄本社や千葉鉄道管理局の受けとめかたを記載することとし、そのため、国鉄担当記者らに指示して、今回の捜索の事実がただちに、本社幹部にまで伝えられたことを確認させ、また、本社や千葉鉄道管理局が、このことに対してショックをうけているとの報告を受け、これに基づいて、本件第一記事後段部分の文章をまとめた。そして、これを午後零時三〇分締め切りの夕刊五版(最終版)に出稿した。

以上の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(ウ)(1)  そして、右(ⅰ)ないし(ⅳ)で認定した取材内容及び島崎の認識していた事実によれば、「信号ケーブル切断事件」に原告が関与していたことが明らかになつたということについて、島崎がこれを真実と信じていたことが認められ、かつ、これを信じるに至るには、千葉県警察の広報担当の発表を始め、指示を与えた記者が警察関係ないし国鉄関係機関等に対して取材を行つて入手した少なからぬ情報及びそれなりに一応の合理性があると言える島崎の原告に対する認識等を総合して検討していることが窺われ、かつ、それら判断の基礎となつた情報、認識から結論を導くにあたつて、特に不合理な推論があつたとは認められないから、島崎がこれを信じたことには、相当の理由があつたということができる。

原告は、(イ)(ⅱ)については、原告の職務管轄からして、原告の関与は推測できない等の主張をし、かつ、(イ)(ⅲ)については、中核派が原告の活動に対し賛意を表しているとしても、そのことから直ちに、原告と密接な関係を有することまではいえないはずである旨の主張をする。しかし、右(ⅱ)の取材内容にせよ、(ⅲ)の各事実にせよ、いずれも、一応それぞれが、原告の関与を推量させる方向に働く要素となる事実であることは疑いないというべきであり、右(ⅱ)、(ⅲ)の各事実に(ⅳ)の事実も併せて全体の情報、認識を総合的に判断すると、島崎の右推論に合理性、相当性を認めることができるというべきである。

もつとも、後段前半部分では、「信号ケーブル切断事件など一連のゲリラ事件に関与」と表現しており、この表現によれば、原告が「一連のゲリラ事件」すべてに関与しているように誤解ないし推測される余地があり、島崎の認識と記事の記載内容は完全には一致していないことになる。しかし、「一連のゲリラ事件」の中では、「信号ケーブル切断事件」が、被害の広域性、犯罪の周知性という観点から、読者にとつて最も重大な犯罪として認識されているであろうことが推測されることからすると、「一連のゲリラ事件」のすべてに関与していたかそのうちの一つである「信号ケーブル切断事件」にのみ関与していたかという認識には、原告の不利益を受ける程度において決定的な差異があるとは考え難く、また、前述したように、本件第一記事を総合的に読めば、右の記事内容は「一連のゲリラ事件」のうちでも「信号ケーブル切断事件」を重要視し、それを中心的事件として扱つていることが窺われるから、島崎の認識と記事の表現の間には、それによつて不法行為の成否が左右されるべき程の格別の懸隔はないというべきである。

(ⅱ)  以上のとおり、後段後半部分については、前記(イ)(ⅳ)Ⅴで認定した事実によれば、島崎がこれを真実と信じ、かつ、このことに相当の理由があつたというべきである。

(三) したがつて、本件第一記事のうち、前段部分については、いわゆる真実性の証明があつたから違法性がなく、また、後段部分については、被告担当者において、これを真実と信じたものであり、かつ、真実と信じたことについては相当の理由があつたといえるから、故意又は過失がないことに帰する。よつて、結局、被告の不法行為は成立しないものというべきである。

三以上によれば、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塩崎 勤 裁判官阿部則之 裁判官芦澤政治)

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